COUNT UP!

COUNT UP! ―― PERFECTに挑む、プロダーツプレイヤー列伝。
―― PERFECTに参戦するプロダーツプレーヤーは約1,700人。
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
2013年9月9日 更新(連載第4回)
Leg1
打ち砕かれた決意、そして再び試される恵太の信念!
小野恵太

Leg1 小野恵太(4)
「星野さんを超えた? まったく、足元にも及びません」

COUNT UP!

ボードを前に心が無に近くなる。視界からノイズが消え、ターゲットしか目に映らない。それが、理想のダーツができる状態だと、小野恵太は言う。その時、恵太のダーツは爆発する。

第3戦北九州大会の第3セット第2レッグ。ウィニングショットを決められず、浅田斉吾にブレイクを許した恵太は、ふと、我に返る。

「これ、駄目だな」

勝ちを意識して力が入り過ぎている。そう気付いたとき、力が抜けた。頭から優勝の二文字が消えた。視界からノイズが消えた。

真面目で礼儀正しく誠実、そして堅実

COUNT UP!

東京都江戸川区小岩。昭和の面影を色濃く残す駅前商店街の、入り組んだ路地を奥深く進んだ一角に、ダーツバーNIPはある。プロダーツプレイヤー小野恵太の拠点。バーカウンターの奥に洋酒がずらりと並ぶ店内に、ダーツマシーンが3台。トーナメント優勝の賞状やトロフィー、恵太の特大ポスターが壁に溢れている。月に10日出勤し、訪れた客とプレイし、ダーツ談義に花を咲かせるのが仕事。稽古場も兼ね、1日2時間の練習は欠かさない。仕事も含めると1日5時間は必ず、ボードに向う。

賞金とユニフォームのスポンサー広告、イベントへの出演料、そして、拠点とするバーからの報酬。それらが収入源だ。

昨年、女子プロダーツプレイヤーの竹下舞子と結婚。長子も誕生し責任が増した。家族を養うため「勝たなければ」という気持ちが強くなった。結婚後は、在京の日の昼間は不動産関連の家業を手伝い、仕事を学んでいる。

「プロとして駄目になったとき、家族を食べさせられません、では困りますから」

真面目で礼儀正しく誠実、そして堅実。初めてダーツプレイヤーを取材することになった私が、当初想像していた人間像とは、かけ離れた人柄がそこにあった。

星野さんを間近で見たい

COUNT UP!

NIPのテーブル席で対座した恵太に、星野との関係を訊ねた。

「師弟? どうでしょう。僕が一方的に尊敬してるだけなんで。でも、星野さんも僕を可愛がってくれてるんで、周りからそう思ってもらえているのかも知れませんね」

昨年初頭、星野から同じ事務所クロスダーツディビジョンに誘われた。「星野さんという人を、もっと間近で見てみたい」。そう思って移籍した。大会前は行動を共にし、前日は一緒に練習する。近くに居れば居るだけ、「大きい」と感じる。ダーツにかける思いが自分とは全然違う。

その年、恵太は年間総合ランキングで、星野を超えた。

が、恵太は言う。

「ランキングはそうですけど、技術も人気も、それに人間的にも、足元にも及びません。今、ランキング上位で、星野さんより人気がある人は一人もいません。肩の故障もあって結果が出てないだけなんで、星野さんを超えたなんて、全然、思ってません」

――星野さんのどこが、そんなに魅力なのですか?

「人間味溢れるダーツをするんですよ。圧倒的な力を見せつけるタイプじゃないんです。でも、大事なところで最高のダーツができる。ハラハラさせて、ぎりぎりのところで逆転して勝つみたいな、見ていて応援したくなるような、人を惹きつけるダーツなんです。試合やイベントでのファンやスポンサーの方への振る舞いも、プロとして、完璧に仕事としてやっている、っていうのが、近くで見ているとよく分かるんです」

“師”を語る恵太の口調が熱を帯びた。

ZOOM UP LEG

第3戦 決勝 第3セット 第3レッグ 「クリケット」

浅田 斉吾(先攻)   小野 恵太(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
S20 T5 T20○ 20 1R S19 T19 T19 76
T20 S20 S19 100 2R T19 S19 T20● 152
T18○ T18 OBD 154 3R S19 S19 S18 190
T19● S18 T18 226 4R S17 T17○ T17 258
S4 T18 T18 334 5R T17 T17 T18● 360
T8 S16 T16○ 350 6R T16● T17 S15 411
S15 S15 T17● 350 7R S10 T15○ IBL 426
IBL OBL○ S14 350 8R IBL●
WIN
426
○=OPEN ●=CUT OBD=アウトボード OBL=アウトブル IBL=インブル
COUNT UP!

コークで恵太は後攻。4Rまでは、浅田が4、5、6、7マーク、恵太は7、7、3、7。陣地は2つずつ、カットもそれぞれ1つ。ポイントで恵太がリードした。

勝負どころとなった5R。1投目を外し6マークの浅田に対し、恵太は9マーク。3投目にトリプルで浅田の18をカットし、吠えた。

6Rでも差を広げた恵太は、7R2投目にトリプルで浅田の17をカットし、勝負あり。8R1投目に、ウィニングショットをブルに突き刺した。

勝利の瞬間、頬を緩め両拳を握りガツポース。すぐに歩み寄り、浅田の右手を両手で握った。

「お前が勝ってくれて、よかった」

COUNT UP!

戦い終わった恵太が頬を緩めていたとき、観客席の最後部にいた星野は、握手攻めにあっていた。二人の関係を知る人々からの祝福に、星野は満面の笑顔で応える。

再起を期し、環境を変えて新しい舞台に挑む星野へのはなむけの優勝。表彰式後、星野は「最後にお前が勝ってくれてよかった」と、“弟子”の優勝を労った。

闘う舞台は変わっても、二人の絆は変わらない。

(Leg.1 小野恵太 / おわり)


次回予告
PERFECT男塾塾生必見!己が求めてやまない「ダーツ道」を究めるために茨の道を歩み始めた一人の野武士。第5戦山形大会をプレイバックしながら彼一流の哲学・美学とは何かを問うコラム第2弾!
Leg.2 山本信博 『職業 ダーツプレイヤー ~求道者の挑戦~』
どうぞお楽しみに!

記事一覧
→ COUNT UP! トップページ
○ライター紹介

岩本 宣明(いわもと のあ)

1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。

京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。

著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。