COUNT UP!

COUNT UP! ―― PERFECTに挑む、プロダーツプレイヤー列伝。
―― PERFECTに参戦するプロダーツプレーヤーは約1,700人。
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
2014年7月22日 更新(連載第38回)
Leg9
PERFECTに舞い降りた妖精。疾走するワルツ
大城明香利

Leg9 大城明香利(1)
決勝に進むのが怖くなった

2013年6月2日、愛媛。大城明香利はPERFECT第8戦準々決勝の舞台にいた。対するは、第7戦を終えて総合ランキングトップを走る今野明穂。

同じ沖縄勢で、13年シーズンから初めてPERFECTにフル参戦したのも同じ。強烈なライバル心を抱き、絶対に負けたくない相手のはずだった。

負けてほっとした

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が、この日の大城のプレイは淡々として粘りにかけていた。第1レグの701で簡単にブレイクを許すと、第2レグも見せ場を作ることもなくキープされ敗退。

試合終了の瞬間、今野の右手を握った大城には笑顔。悔しさの欠片も見せず、その表情からは、むしろ安堵の様子が窺われた。

「もちろん、悔しいんですけど、正直、これで決勝に行かなくて済むんだって、ほっとしました」

13年ツアー第8戦準々決勝終了の瞬間の心境を振り返って、大城はそう語った。

絶対に負けたくないライバルに負けってほっとした?ーー。

大城に何が起こっていたのだろうか。

「年間女王を獲る」

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大城のPERFECT初参戦は前年12年シーズンの第10戦横浜大会。この年、D-CROWNでプロ資格を取得したばかりのルーキーで、このとき24歳。D-CROWNの消滅にともない、浅野ゆかりらとともに移籍した。といっても、スポンサーの援助は受けていない、実質的にはアマで、自費の参戦。遠く沖縄から全戦参戦は難しく、D-CROWNもPERFECTもスポット参戦だった。

初参戦の横浜は決勝トーナメント初戦の2回戦敗退。次に出場した第12戦沖縄大会でも決勝Tの初戦で敗退。第16戦の岐阜では予選ロビンで姿を消し、まったく結果を残せなかった。

にもかかわらず、13年シーズン開幕前には、その実力を知るバレルメーカーRyuダーツがスポンサーに名乗りを上げる。地元沖縄も呼応し、ダーツショップがこぞってスポンサーとなり大城を支援する体制をつくる。全国的には全くの無名のプロ2年生は、全戦参戦の環境を得ることができた。

開幕前の2月。レーティングが24を超えた。PERFECTの公式サイトで選手名鑑を見て、4年連続総合1位の絶対女王・松本恵よりも「かなり上」と思った。

「私のほうが出てるじゃん」。怖いもの知らずの大城は、自信満々でPERFECTの戦場に乗り込む。「そこそこやれる」という自信ではない。年間女王を獲れる、という自信だった。

が、シーズン序盤、この過信に大城はしっぺ返しを喰らわされることになる。PERFECTは甘くはなかった。

決勝で3連敗

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13年シーズン開幕戦横浜大会で、大城は2回戦のベスト16で敗退。対戦相手は決勝まで駒を進めた竹本絵美だった。

が、第2戦の神戸で大城は早くも決勝の舞台に立つ。対するは今野。結果は0-3の完敗。同じ沖縄の同期生に先を超され初優勝を浚われた。

第3戦の北九州でも再び決勝に駒を進めたが、D-CROWNからともに移籍してきた大先輩の浅野に1-3で跳ね返される。

第4戦中止の後の第5戦はベスト4、第6戦もベスト4。傍目には新人選手の快進撃に見えたが、大城は満足していなかった。満を持して挑んだ第7戦横浜大会で三度、決勝に進んだ。もう一方の山を勝ち進んできたのは女王・松本。「今度こそは」と立ち向かったが、0-3で3度目の準優勝。決勝は3連敗で、まったく自分らしいダーツができない。

「私はここまでなのかな、これが限界なのかな」

6戦して3度決勝に進んだのは大城と今野だけだったが、大城は傷ついた。開幕前の自信は吹き飛び、心が折れそうになった。何より、沖縄に帰って、優勝を待ち望む地元の人々に会うのが辛い。「惜しかったね」「次は勝ってね」。そう言って応援してくれている人たちを、がっかりさせたのが悲しい。3度も期待を裏切ってしまったことが申し訳ない。

決勝に進んで下手なダーツをして、またがっかりさせたくない。「ああ、やっぱり大城は(決勝では)勝てないんだ」と思われてしまうのではないか。沖縄の期待に押し潰されそうになり、決勝に進むのが怖くなった。

第8戦愛媛大会準々決勝敗退後の、不可思議な安堵には、理由があった。

涙の初優勝

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2013年6月8日、仙台ホテル瑞鳳。第9戦。ベスト8で對馬裕佳子、準決勝で松本伊代の強敵を倒した大城は4度目の決勝に挑んだ。

逆山を勝ち進んできたのは、松本恵と大内麻由美を撃破し波に乗る今瀧舞。今瀧もまた、13年シーズンが初の全戦参戦のニューフェイス。今野、大城と並び、PERFECT女子の次代を担う逸材と注視されていた。

加えて今瀧は、PERFECTに参戦したばかりで、ツアーを共にする選手たちとあまり馴染めずにいた大城が心を許す数少ない僚友の一人。今瀧と決勝で戦えるのがとても嬉しかったが、「仲がいいからこそ」絶対に負けたくなかった。今瀧は初の決勝進出で、どちらが勝っても初優勝。4度目の決勝の大城は、負けたくないと同時に、「負けられない」という気持ちも強かった。

試合は3レグまでは互いに先攻をキープし、両者譲らぬ緊迫した展開となる。そして今瀧の先攻で迎えた第4レグに、その時がやってくる。

ZOOM UP LEG

2013 PERFECT【第9戦 仙台】
決勝 第4レグ「701」

今瀧 舞(先攻)   大城 明香利(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
B B 9 592 1R B B B 551
B B B 442 2R B 16 B 435
B 17 3 372 3R B B B 285
12 B 10 300 4R 5 19 B 211
9 1 B 240 5R B B 9 102
B B B 90 6R B 2 B 0
WIN
OB=アウトボード

レグカウント2-1。大城の1レグリードで迎えた第4レグは、今瀧先攻の701。第1Rは今瀧の2ブルに対し、大城はハットトリック。第2Rは今瀧がハットを打ち、大城は2ブルで、緊迫した序盤となった。

第3R。今瀧は2、3投目と連続でブルを外し70P。大城は、突き放す絶好のチャンスを2度目のハットトリックでものにし、to go 372-285 と水をあける。

第4Rは両者ブルは1本ずつ。迎えた第5Rで、1投目をS9に外した今瀧は、次のラウンドに上がり目を残すため2投目でT20にチャレンジしたが、チップはわずかに右上。大城は2ブルでto go 102。今瀧はto go 240で大勢が決した。

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仙台大会決勝第4レグの第6Rで、先攻の今瀧は意地のハットトリックでto go 90とし、大城にプレッシャーをかけた。が、大城はまったく動じることはなかった。それまでの敗退した3度の決勝とは別人。テンポよく1投目をブルに、2投目はS2にアレンジ。そして3投目。同じテンポで振り出されたダーツはインブル近くに突き刺さった。

その瞬間、大城は両手を2度打って喜びを爆発させ、今瀧と力強い握手を交わした。直後のインタビューでは声を詰まらせ、最後まで言葉が出てこなかった。

解き放たれた「決勝の呪縛」

先回りをして言えば、2013年シーズンの大城は、年間総合4連覇中だった絶対女王の松本恵を倒し、初の全戦参戦で女王の座を射止める金字塔を打ち立てることになる。

そのシーズンを振り返って、一番嬉しかったのは、年間女王ではなく、初優勝の瞬間、と答えた。何より、沖縄の「みんなの応援に応えられたのが嬉し」かった。

仙台の優勝を機に、「決勝の呪縛」から解き放たれた大城の、怒涛の快進撃が始まる。


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それにしても、と思う。2013年シーズン序盤、第8戦(第4戦は中止)までの大城は、準優勝が3回、ベスト4が2回に、ベスト8が1回。どこから見ても堂々たる成績に見える。まして、大城は全戦参戦は初めての新人。が、年間女王になれると自信をもってPERFECTに乗り込んできたその沖縄の新人は、この成績に飽き足らず、決勝に出るのが怖いと追い詰められていた。

大城明香利とはいったい何者なのか。その自信と実力の源泉は、どこにあるのか。

(つづく)


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○ライター紹介

岩本 宣明(いわもと のあ)

1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。

京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。

著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。