COUNT UP!

COUNT UP! ―― PERFECTに挑む、プロダーツプレイヤー列伝。
―― PERFECTに参戦するプロダーツプレーヤーは約1,700人。
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
2015年12月28日 更新(連載第72回)
特別編
来年は歴代年間最多勝と世界の頂点を目指す
浅田斉吾

特別編 大城明香利
初の3冠に輝いたPERFECTの至宝

COUNT UP!

2015年シーズン年間総合優勝者インタビュー第2弾は、2年ぶりに女王の座に返り咲いた大城明香利選手です。
 2013年、初のPERFECT全戦参戦のルーキーイヤーに女王の冠を射止めた大城選手の総合優勝は2度目です。開幕第2戦で今季初優勝を遂げた大城選手は、第3戦、第6戦で準優勝しランキング1位に躍り出ると、第7戦からの3連勝で2位以下を突き放し独走。第15戦GⅠ横浜大会で最終戦を待たずに年間女王を確定させました。年間6勝に5回の準優勝、全17戦中実に11度もファイナリストとなる圧倒的な強さでツアーを駆け抜けました。(聞き手、COUNT UP 著者・岩本宣明)

初心に帰り、挑戦者の気持ちで

――まずは、年間女王に返り咲いた率直なお気持ちをお聞かせください。
 [大城] 気持ち? いや、嬉しいです。それしかないです。

――昨年は首位で迎えた最終戦で松本恵さんに逆転され、わずか1ポイント差で連覇を逃しました。随分、悔しかったと思いますが、今年の開幕はどんな意気込みで迎えられましたか?
 [大城] そうですね。去年は相当悔しかったので、今年は一から、新しい気持ちと言いますか、初心に帰りチャレンジャーの気持ちですかね。ユニフォームの襟も白に変えて、ほんとは赤が好きなんですけど、まっさらな気持ちで臨みました。(初めてフル参戦した)2013年と同じ気持ちでツアーを回っていたので、それが結果に繋がったのかなって思います。

「ファンに喜んでほしい」

COUNT UP!

――優勝が6回に準優勝が5回で、11度も決勝に残りました。スタッツランキングでも最優秀PPD、MPRを獲得し、初めて3冠にも輝きました。これほど強いダーツを打てた勝因はどこにあったと思いますか?
 [大城] 去年と違って、一試合一試合、試合に対する気持ちが強かったからだと思います。もちろん、去年もベストを尽くしていたんですが、試合に対する気持ちが違いました。

――理由はありますか?
 [大城] 周りが凄く応援してくれたからです。私が負けると泣いてくれるファンもいました。もちろん、去年までも沢山のファンの方々に応援していただいていたのですが、2013年に総合優勝して、去年も最終戦まで首位にいたので、ファンの気持ちが見えてなかったんです。それが去年2位になってとても悔しい思いをしたとき、一緒に泣いてくださるファンの姿を見て気づいたんです。悔しいのは自分だけじゃないんだって。
 ですから、今年はまるでツアーを一緒に回ってるように毎大会見に来てくれる人たちのためにも、どの試合も勝たないといけないな、結果を残して喜んでいる顔をみたいなって思って、一試合一試合に挑みました。そこが大きな違いで、それが結果に繋がった要因かなと思っています。

――技術的なことや、メンタルな部分で変わったことや変えたことはありましたか?
 [大城] 周りの人からは変わったって言われることもありましたけど、変えてはいないです。ですから、技術的にはないですね。メンタルでは、今年で3年目を迎え、随分、気持ちに余裕ができたと思います。特に決勝ですかね。この3年間で一番決勝に上がっているのは私だと思うんですが、決勝はものすごく度胸がいるので緊張しますが、1年目2年目よりは余裕を持って決勝を戦えました。もちろん、今でも緊張しますが、余裕がないかと言えばそうではなくて、場数を踏んで来ただけに、プレッシャーには強くなって、安定しているなと感じます。

「仲がいい分、やりたくないな…」

COUNT UP!

――昨年は最終戦の準々決勝で今野明穂さんに負けたことで、年間女王を逃してしまいましたが、その今野さんを今年は7勝2敗で圧倒しました。結果が逆なら総合優勝はもちろん今野さんです。今野さんとの対戦に何か特別な思いはありましたか?
 [大城] 昨年の最終戦で明穂さんに負けて年間総合優勝を逃した時は、めちゃくちゃ悔しかったけれど、負けた相手が明穂さんで本当によかったと思いました。他の人だったら気持ちの切り替えにもっと時間がかかっていたと思います。「PERFECTはそう甘くないよ」って、明穂さんに喝を入れてもらったのだと思いました。
 明穂さんとは、同じ沖縄の島村麻央ちゃんと3人でいつも一緒にいて、一番近しい仲です。去年のことがあったからという訳ではなくて、いつも切磋琢磨しているからこそ、負けたくないという気持ちも強いです。
 今季は15戦の横浜大会のベスト32に残った時点で年間優勝が決まったんですけど、その後すぐにベスト8で明穂さんと対戦したときは複雑でした。ポイントランキングに関わる重要な時期に、自分の総合優勝が決まった試合の後で、明穂さんと対戦するのは辛いなと思ってしまいました。もちろん、試合ではみんな敵なので私情を入れてはいけないと思って、試合には臨みましたが、だいぶ辛いですね。仲がいい分、やりたくないな、って。でも、そんなこと言っていてはランキングは獲れないので……

「練習する時間が足りなかった」

COUNT UP!

――圧勝した女王に失礼かもしれませんが、反省点はありますか? 結婚されてスポット参戦になった松本恵さんとは2戦して2敗で、唯一負け越しました。
 [大城] そうですね。恵さんをまったく意識してないと言えば嘘になりますね。あのオーラは、背中を見ていたら、絶対入れてくるなというオーラはどの選手よりも強いです。すごいな、って思います。でも、そのオーラにやられて入らなかったかと言えば、そうではなくて、ただ、純粋に私の調子が悪くて、入れきれなかったから負けちゃったんだと思います。最終戦もベスト8で負けましたけど、もう少し練習しとけばよかったと思いました。
 恵さんは、ちょろちょろっと出場しては毎回好成績をあげていきますから、負けたくないって思いはありました。でも、恵さんにはそれまで培ってきたものがあるので。まだ誰も超えてないですよね。4連覇ですから。それに勝る選手が出てきていないのが悔しいですが、恵さんを超えるには5連覇するしかないですよね。去年獲ってたらあと2つだったのにな…。

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――年間2位の大内麻由美選手とは3勝3敗で、決勝で3度やられました。
 [大城] 麻由美さんも強かったですね。今年はと言うか、もともと実績のある大先輩ですし、さすがですよね。どんどん上に来てるなって、思っていました。けれど、それで負けたのではなくて、はやり、恵さんと同じで、自分が打ちきれなくて負けているイメージが強いです。技術の問題ですね。言い訳になりますけど、練習する時間が取れてなかったのが原因だと思います。今年はイベントとかの仕事が多くありまして、イベントで練習という感じで、ホームのお店で一人で練習する時間がとれてなかったのが、一番の反省点です。
 私は気持ちでダーツを飛ばすタイプなので、やっぱり練習が足りてないと、自信をもって試合に臨めないから気持ちも弱くなってだめだよねって。周りは私を倒そうとしているわけだから、そりゃ練習して来ますよね。これじゃ勝てないよね、って毎回思っていました。 試合の前に練習が出来てなくて自信がないときに限って、恵さんだったり麻由美さんとの対戦があったりしたんです。気持ちだけでは勝ちきれないのがプロの世界ですから、来年は練習の時間を増やしたいと思います。

「しーちゃんとの対戦では、ついガッツポーズが」

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――今年の大城明香利のベストマッチはどの試合ですか?
 [大城] 誰とのどの試合がベストマッチというのはないんですけど、高木静加ちゃんとのダーツは毎試合いいダーツが出来たと思います。しーちゃん(高木選手)とは同じ歳で、いつも「明香利ちゃんには絶対負けない」って言ってきてくれるので、私も「しーちゃんにはまだまだ負けないよ」って言いながら、結構意識している部分あります。彼女は天才的だと思うので、覚醒されると怖いから勝てるうちに勝っとけと。しーちゃんは試合中もガッツポーズをして、闘志を全面に出してくるタイプなので、私も中途半端な気持ちではいけないと気合が入って、普段は試合中にはガッツポーズ出さないようにしているんですが、しーちゃんとの試合の時だけはつい出てしまいます。

ZOOM UP LEG

2015 PERFECT 第2戦 北九州 「準決勝」

第1LEG「701」
髙木 静加(先攻)   大城 明香利(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
B 14 15 622 1R B B B 551
20 4 B 548 2R B 11 B 440
B B 16 432 3R 20 B B 320
B 12 B 320 4R B 12 11 247
B B B 170 5R B 14 B 133
2 B 19 99 6R B 5 12 66
17 B D16 WIN 7R
T=トリプル D=ダブル B=ブル
第2LEG「クリケット」
大城 明香利(先攻)   髙木 静加(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
T20 20 20 40 1R 19 T19 19
19 T19 20 60 2R T17 T17 T20 70
18 T18 T17 78 3R 16 16 70
16 T18 132 4R 16 T16 118
16 16 132 5R T15 T15 163
T18 15 18 204 6R T15 18 208
18 15 15 222 7R IBL IBL 208
OBL OBL OBL 222
WIN
8R
T=トリプル D=ダブル IBL=インブル OBL=アウトブル
第3LEG「クリケット」
髙木 静加(先攻)   大城 明香利(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
T20 20 20 1R T19 19 19
19 20 20 60 2R T19 T20 19 95
17 T17 T17 128 3R 19 T19 171
128 4R 17 17 17 171
18 T18 T18 200 5R T19 19 247
T18 254 6R T19 18 T19 361
T18 308 7R T18 T19 19 437
T16 T16 16 372 8R 16 T16 T19 494
T15 T15 15 432 9R 15 T15 OBL 494
IBL OBL 432 10R OBL OBL 494
WIN
T=トリプル D=ダブル IBL=インブル OBL=アウトブル
第4LEG「701」
大城 明香利(先攻)   髙木 静加(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
B B B 551 1R B 20 B 581
11 B 12 478 2R 13 B B 468
B 5 B 373 3R B B 20 348
5 11 B 307 4R B B B 198
B B 4 203 5R B B B 48
B B B 53 6R T16 WIN
T=トリプル D=ダブル B=ブル
第5LEG「クリケット」
大城 明香利(先攻)   髙木 静加(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
T20 20 T20 80 1R T19 0
19 19 19 80 2R 18 18 18 0
T18 T20 140 3R T17 17 17 34
T17 16 T20 200 4R 16 T16 T16 98
16 16 20 220 5R T15 T15 143
T15 OBL 220 6R OBL OBL OBL 143
20 240 7R OBL 168
OBL OBL 240
WIN
8R
T=トリプル D=ダブル IBL=インブル OBL=アウトブル

世界は遠くなかった

COUNT UP!

――今年は世界最高峰と言われるイギリス開催のワールドマスターズでベスト8となり、海外でも活躍されました。
 [大城] 日本では日本人初のベスト8と紹介されましたが、初めてではないそうです。今年も一緒にベスト8に入った大内麻由美さんが、その前に2回か3回、ベスト8に入っています。去年まではベスト4からしか放送がなかったのに、今年からベスト8も放送されるようになって、放送のあるメインステージで投げるのが日本人初だったんです。放送されてラッキーでした。

――以前、COUNT UP! の取材でお話を伺った時には、2年後には世界を目指すと言っておられました。
 [大城] イギリスは行ってよかったと思いました。Lスタイルの甚太さん(芹澤甚太社長)に言われなかったら参加してなかったと思います。2012年ごろから「イギリスに行ったらダーツの考え方が変わるから」って、ずっと言ってくれていたんですが、「そうかな、まあ、日本の女子のレベルは凄いし、男子だって斉吾さんは凄いし、言うてもな」って気持ちはあったんですけど、行ってみたらやっぱり凄かったです。女子であんなダーツ、ぽかすか打てるんだ、あんなに入るんだって、衝撃でした。
 でも、そんなに遠くの世界ではないっていう手応えも素直に感じました。ベスト8では世界一と言われていたファロンさん(Fallon Sherrock選手)と対戦したんですが、4レグ先取の試合で3-2まで追い込んで、6レグ目にウイニングショットの17のダブルを決めきれずに逆転されて、そのまま負けちゃったんです。まったく歯が立たないという訳じゃないと思いました。
 PDCの参加が決まって試合まで3カ月あったんですが、ハードの練習があまりできませんでした。だから、ハードをもっと練習したら(タイトルが)獲れるんじゃないか、ってちょっと思いました。日本の女子のレベルも年々上がってきているので、切磋琢磨できる人が沢山いて環境には恵まれています。
 ただ、今のままでは絶対勝てないとも思いました。練習という次元ではなくて、なにか覚醒しないと勝てない、というような気がします。現状維持では勝てない、でも、覚醒するために何をすればいいかはまだ自分の中で見つけられていないので、探しています。

――来年も挑戦する、と?
 [大城] 行きます。絶対行きます。リベンジしたい。

――じゃ、まだまだやめられないですね。
 [大城] そうですね。まだまだ、ダーツが彼氏ですね。

「来年は世界を狙います」

COUNT UP!

――最後に、来年の目標をお聞かせください。
 [大城] PERFECTの連覇と世界でのリベンジです。優勝を狙いたいと思います。それから、PERFECTでは連覇だけではなく、女子の最多勝を狙いたいと思っています。2008年に岩永美保さんが9勝しているので、10勝以上が目標です。

――今年は準優勝が5回。すべてに勝っていれば11勝でした。
 [大城] 決勝で勝ちきれるメンタルを身につけたいですね。頑張ればいけますね。

(終わり)

次回予告
次回からはLeg15、大内麻由美プロをお送りします。

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○ライター紹介

岩本 宣明(いわもと のあ)

1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。

京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。

著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。