COUNT UP!

COUNT UP! ―― PERFECTに挑む、プロダーツプレイヤー列伝。
―― PERFECTに参戦するプロダーツプレーヤーは約1,700人。
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
2014年2月3日 更新(連載第24回)
Leg6
「ファイター」という称号を纏った一人の男、その戦いのバラード
今瀧舞

Leg6 浅田斉吾(1)
「今季の目標は圧勝です」

ソフトダーツプロトーナメント 2014PERFECTの開幕を前に、浅田斉吾に今季の目標を訊ねた。「圧勝です」と答えた。即答だった。

「最終戦まで競って、誰彼の結果次第というようなぎりぎりの優勝じゃなくて、『もう、あいつしかないね』って言うような、13年シーズンの山田(勇樹)のような勝ち方で、優勝したいと思っています」

2013PERFECT 年間総合ランキング2位、前年3位の浅田にとって目標は年間王者しかない。が、それだけでは足りない。「圧勝」の一語には、今季にかける浅田の覚悟が滲み出ている。

1年間、優勝に見放された

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終わってみれば、兵揃いのツアー20戦で3勝。3回の準優勝とベスト4で、年間総合ランキング2位。13年シーズンの浅田は、山田勇樹、山本信博、小野恵太と並ぶ四天王の地位を不動のものとし、安定した力を見せつけた。

が、本人は「年間を通して調子が悪かった」と言い、苦悩の一年を振り返った。

開幕戦こそベスト16と出遅れたが、第2戦でベスト4。第3戦、第5戦で連続して準優勝(第4戦は中止)。順調な滑り出しに見えた。が、第6戦以降苦しい戦いが続く。第12戦の広島までの7戦で、ベスト4が2回あるものの、4度の決勝トーナメント初戦敗退を喫した。

何より苦しかったのは、優勝から見放されたことだ。最後の優勝は12年7月の第8戦。以後、決勝までは駒を進めても表彰台の真ん中に立てない。1年以上、優勝の二文字から遠ざかってしまった。

盛夏、横浜

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迎えた第13戦横浜大会。盛夏8月。山本がベスト32、山田、小野がベスト16で次々と姿を消す中、順調に決勝に駒を進めた浅田に千載一遇のチャンスが巡ってきた。

対するは決勝初進出の野島伶支。12年の年間ランキングは23位。下馬評は浅田の絶対有利だったが、ベスト16で小野を破り勢いに乗る、侮れない伏兵だった。

浅田は、この日も調子は最低だった、と振り返る。「最低」というのは、単純にダーツが狙い通りに飛ばないということ。しかし、1回戦は苦しんだが、2、3回戦の戦いでの中で「バシッと」来た。

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第13戦 横浜大会 決勝 第1セット 第1レグ「501」

野島 伶支(先攻)   浅田 斉吾(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
S5 T5 S20 461 1R T20 S20 S20 401
T20 S20 T19 324 2R T20 T1 T20 278
T20 T20 T20 144 3R S20 T19 S19 182
S20 T20 S16 48 4R T20 T20 T10 32
S16 OBL D16 WIN 5R
OBL=アウトブル
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野島の先攻で始まった501。立ち上がりは両者硬く、第1Rは野島40Pで浅田はTON。第2Rは野島が137Pを削り、浅田は123P。差が縮まった。

第3R。TON80を打った野島が上がり目の togo144で逆転。浅田は2投目をミスし182Pを残した。

第4R。野島は1投目を外して48Pを残す。他方の浅田は togo32で、野島のミスを待った。が、第5Rの野島は1投目にアレンジのS16の後、3投目をD16にねじ込み、ファーストレグをキープした。

第1レグをキープされても浅田は冷静だった。決勝の舞台で、自分のダーツは掴んでいた。どうすれば狙い通りにダーツが飛ぶか、分かっていた。野島は上手いけど、初めての決勝に重圧を感じているはず。互いのプレッシャーの軽重は考えるまでもなかった。「次は100%とキープできるし、その次も取れる」

ゲームは浅田が思い描いていた通りに進んでいくことになる。

誤解

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楽屋話を告白すると、浅田斉吾のインタビューに出かけるときは、少し気が重かった。ちょっと怖かったのである。

試合会場で見る浅田には、圧倒的な存在感がある。他者を寄せ付けない殺気がある。加えて、身長185㎝の格闘家のような体躯である。気軽に「調子どう?」などと話しかけられる雰囲気はない。

何人かのプレイヤーに聞いてみても、「見かけによらず、気さくな人ですよ」などという、こちらが待ち望む芳しい話は返ってこない。誤解を恐れずに言えば、試合会場で遠目に映る浅田は「気難しく」「怖い」人なのである。格闘家のような体躯を持った気難しく怖い人に、いそいそと話を聞きに行くインタビュアーは、それほど多くない。

もちろん、誤解だった。誤解であればこそ、楽屋話ができる。実際にお会いした浅田は、試合会場で見る姿とは別人だった。気難しくも怖くもない。人懐っこい笑顔が印象的な、無邪気で少年の心を持った人だった。

浅田斉吾は、誤解されやすい人なのだ。それには、浅田斉吾という勝負師の生き方と深い関係がある。

(つづく)


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○ライター紹介

岩本 宣明(いわもと のあ)

1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。

京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。

著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。