COUNT UP!

COUNT UP! ―― PERFECTに挑む、プロダーツプレイヤー列伝。
―― PERFECTに参戦するプロダーツプレーヤーは約1,700人。
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
2016年7月14日 更新(連載第79回)
Leg16
いつも夢見ていたPOLAR STAR。いつか届く、いつか伝わる。
北が南を溶かす、この情熱の熱情を。
髙木静加

Leg16 髙木静加(1)
大城明香利の予言

2016年2月。髙木静加はPERFECT開幕戦の決勝の舞台にいた。決勝を戦うのは2度目。最初の決勝は前年の4月に神戸で戦い、憧れの大先輩、松本恵に敗れていた。

2013年にPERFECTにデビューし、2015年シーズンに初めて全戦参戦したプロ4年目の新鋭。が、初の全戦参戦で、準優勝1回、3位タイ1回、5位タイ5回で年間総合ランキング6位の成績を残し、今季開幕前に、トリニダードのプレイヤーに昇格した期待の星だった。

「優勝したくて必死でした」

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決勝を戦うのは、トリニダードの先輩、田中美穂。PERFECTで戦うのは2度目。昨季の第7戦でベスト8を戦い敗れていた。
 トリニダードのプレイヤーに昇格して初めての大会で訪れたチャンスに気合が入った。が、絶対に優勝、とは思わなかった。「楽しもう」。髙木はそう思って大舞台に望んだ。

第1レグ。後攻の髙木は第1Rでハットトリックを決めると、にこりと笑顔を見せた。そこから4R連続のハットトリック。笑いが止まらない。試合前に思った通り、決勝を誰よりも楽しんでいる髙木がいた。

第5R1投目もブルで残り51ポイント。決勝でのブルパーフェクトまで後1本に迫ったが、2投目の51トライに失敗。
「1本目にブルに入ったとき、いけると思いました。けど、いけると思ったら、やっぱり駄目」だった。

第1レグをブレイクして勢いを得た髙木は、第2レグも難なくキープ。そして、第3レグを迎える。

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2016 PERFECT【開幕戦 横浜】
決勝戦 第3レグ「クリケット」

田中 美穂(先攻)   髙木 静加(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
20 20 20○ 0 1R × 19 19 0
20 20 20 60 2R × 19○ 19 19
× 19 T20 120 3R × T19 T19 133
T20 T19● × 180 4R 18 T18○ T18 205
T20 18 T20 300 5R × T18 × 259
× 18 18● 300 6R × × 17 259
17 17 17○ 300 7R 16 16 16○ 259
× T16● 20 320 8R 15 T15○ T15 319
15 × 20 340 9R 15 T15 T15 424
20 20 T20 440 10R T15 T20● × 469
× × 17 457 11R × × 17 469
× 17 × 474 12R 17 T15 × 514
OBL IBL○ T15● 474 13R OBL IBL● 514
WIN
OBL=アウトブル IBL=インブル T=トリプル D=ダブル ○=オープン ●=カット
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「ここが勝負。ここでブレイクされたら、流れが変わる」。2レグリードの髙木は気を引き締めて第3レグに挑んだ。

序盤は両者固く我慢比べの展開。第1、第2Rは田中がともに3マーク、髙木はともに2マーク。第3Rで髙木が6マーク、第4Rで田中が6マークを打ち返すと、髙木もすかさず7マークを打ち、序盤の戦況は拮抗する。

第5Rで、7マークの田中が一歩抜け出す。田中が2マークの第6Rで髙木は1マーク、第7Rは両者シングル3本。第7Rを終え、20と17を保持する田中のポイントは300。他方の髙木は19、18をカットされ保持する陣地は16だけ。ポイント259で大きくリードされた。

が、第8Rで潮目が変わる。髙木の16をカットし、3投目に20Pをプッシュし320Pとした田中に対し、髙木は「大好きな」15の7マークでポイント319。陣地は1つだが、ポイントは迫った。

第9R。逃げ切りたい田中だったが、1本目のカットはシングル。2本目をミスし、3本目は20のシングル。髪の毛に手が届いた髙木は、連続の7で424P。ポイントオーバーで、戦況を押し返す。続く、 第10R。20の5マークでポイントオーバーの田中に対し、髙木は一本目にトリプル15でポイントを再逆転すると、2投目の1本で20をカット。保持する陣地とポイントで、戦況は全くの五分となった。

が、ここで田中が大ブレーキ。第11、12Rで連続の1マーク。第11Rは1マークで「お付き合い」の髙木は、第12Rの1投目、ポイントビハインドで田中の17をカット。勝負の2投目に得意の15をトリプルに捩じ込み大勢を決した。

第13R。ブル、インブル、15トリプルで意地を見せた田中は、髙木のミスを待つ。が、髙木は2本でブルをカットし、悲願の初優勝を捥ぎ取った。

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初優勝の決勝を振り返って髙木は言う。
「4年目のシーズンで、そろそろ優勝しなくちゃと思っていたので、ほっとしました。優勝したくて必死でしたから。最後は、一本目にインブルに入ったので、インブルに入るときは調子が良いので、大丈夫だと思いました。泣かないつもりでしたけど、後で少し涙が出ました」

手首を前に

開幕戦前日、トリニダードのバレルデザイナー、高口清隆からアドバイスを受けた。手首が早く返り過ぎるとダーツが早く落ちてしまうから、もう少し手首を押すイメージで、手首が自然と返るまで粘ること。テークバックのとき、肩から出すイメージを持つこと、の二つだった。

一緒に練習しながらのアドバイス。練習用に試合より重いバレルで投げることを勧められ、試合より重いバレルで何度も練習を繰り返した。

「試合では軽いバレルを投げましたけど、バレルの重さを感じながら、前の日に練習した通りのイメージで投げることができました。バレルがすごく飛んだので、今日はいけると思っていました」

裏方のアドバイスが、髙木の飛躍に力を貸した。

勢力図を書き換えた新星

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北海道の新星、髙木静加が旋風を起こしている。
 横浜の開幕戦で自身2度目の決勝で悲願の初優勝を遂げると、第2戦北九州大会でもベスト4。第6戦福岡と第7戦仙台を連覇し、女王レースのトップを走っている。

第10戦を終え、トップの髙木と2位の前年女王・大城明香利の差は僅かに2ポイント。大城から23ポイント差で大内麻由美が追う。大城は第9、10戦を連覇し髙木を猛追。大内は優勝1回ながら10戦中7戦でベスト4に入る抜群の安定感を見せる。開幕前に誰も予想しなかった展開に、PERFECT女子が活気を帯びている。

前年に女王を奪還した大城と、進境著しい実力者・大内の一騎打ち。そこに今野明穂が絡めば面白くなる――。開幕前、女王レースを占う大方の予想はそうだった。が、高木の登場で勢力図はすっかり書き換えられた。開幕戦は大内、田中を撃破しての初優勝。第6戦は大城を、第7戦は大内をともに決勝で退けての連覇だった。

髙木のPERFECTデビューは2013年8月開催の札幌。大会前のプロテストに一発合格しての参戦だった。それまで試合の経験はほとんどなかったが、デビュー戦でいきなり決勝トーナメントに残り、片鱗をみせた。

テスターとしてトリニダードのユニフォームに袖を通した2014年は計7戦のスポット参戦。第8戦でベスト8、最終戦でベスト4に入賞した。そして迎えた2015年。全戦で決勝トーナメントを戦い、ランキング6位の実績を残す。


2016年シーズン開幕前、髙木の活躍を予想していた選手がいた。現女王の大城がその人だ。

昨年末の年間女王インタビューで、シーズンのベストマッチを問われた大城は、こう答えた。
「ベストマッチということではないですけど、しーちゃん(髙木選手)とのダーツは毎試合いいダーツができたと思います。結構意識しています。彼女は天才的なプレイヤーなので、一度優勝すると怖い存在になると思うので、絶対に優勝させたくないですね」

2015年、髙木は大城と実に8回戦い、僅かに1勝。7度はねのけられている。にもかかわらず、そのダーツは女王をして一番意識する相手と言わしめた。大城の予言通り、初優勝を遂げた髙木は、快進撃を続けている。

男子並みのダーツの飛びと、試合中喜怒哀楽を隠さない天真爛漫と旺盛な食欲がトレードマーク。 髙木静加はいったいどこからやってきたのか。

(つづく)


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○ライター紹介

岩本 宣明(いわもと のあ)

1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。

京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。

著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。