COUNT UP!

COUNT UP! ―― PERFECTに挑む、プロダーツプレイヤー列伝。
―― PERFECTに参戦するプロダーツプレーヤーは約1,700人。
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
2013年10月28日 更新(連載第11回)
Leg3
D to P 受け継がれたフロンティアの血脈
浅野眞弥・ゆかり

Leg3 浅野眞弥・ゆかり(1)
「PERFECTで優勝するのは、簡単ではないと感じました」

2013年シーズン。PERFECTに新風が吹いている。ときに戦ぎ、ときに吹き荒れる。

大城明香利=女子ランキング1位(9月末現在)、浅野ゆかり=同7位、大内麻由美=同10位、知野真澄=男子同9位、松尾伯挙=27位、そしてダーツ界の大御所、浅野眞弥、佐藤敬治…

彼女・彼らはいずれもD-CROWNからの移籍組。固い絆で結ばれた一団が、今年からツアーに本格参戦し、旋風を巻き起こしている。

中でも注目を集めたのが、絶対女王としてD-CROWNに君臨した浅野ゆかりだ。ハードダーツ界では長く日本代表の座に名を連ね、世界を舞台に活躍。その名を知らぬ者はいない。

女王対決に熱い視線

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D-CROWNは07年にスタートした、日本で2つめのソフトダーツのプロツアー。11年には、トップ選手が団体戦で戦うPERFECTとの対抗戦も実現したが、昨季、財政難で空中分解。D-CROWNのプレイヤーの多くが、シーズン途中からPERFECTに合流した。

浅野がD-CROWNの女王なら、PERFECTには松本恵がいる。11年まで3連覇、12シーズンも第10戦までランク1位を堅持していた。二人は一度だけの団体対抗戦で直接対決し、このときは浅野に軍配が上がった。

浅野は新天地でも絶対的な力を見せるのか。それとも、PERFECTの女王がリベンジを果たすのか。浅野の参戦で、女王対決に熱い視線が注がれた。

屈辱の予選落ち

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が、浅野はPERFECTでなかなか勝てない。Dの女王としてのプライドと重圧に、思わぬ苦戦を強いられる。

昨季、初参戦の第10戦は2回戦で、同じD出身の大内麻由美に敗退。第11戦岡山大会では、準決勝で早くも女王対決を実現させたが、レグカウント0-3で惨敗。その後も精彩を欠き、予選落ちの屈辱を2度も味わった。

雪辱を期した今季も開幕横浜大会は2回戦敗退。第2戦の神戸ではベスト8で再び松本恵と対戦し、またも惨敗した。

浅野はD-CROWNの消滅で、燃え尽きてしまったのか。PERFECTでその輝きを取り戻す日が来るのか。周囲をやきもきさせた浅野本人にも、不安が過っていた。

迎えた第3戦北九州大会。2回戦で大内を、準々決勝では、昨季ランク6位の岡田まゆみを下して、準決勝に勝ち上がった。

待っていたのは、開幕戦ベスト4、第2戦優勝、今季絶好調の新星、今野明穂。戦いを前に、今野有利の下馬評が大勢を占めた。

ZOOM UP LEG

第3戦 北九州大会 準決勝 第1レグ「701」

浅野 ゆかり(先攻)   今野 明穂(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
S1 B S15 635 1R B B S7 594
S17 B S7 561 2R B B S17 477
S20 S7 S9 525 3R B B S11 366
B B B 375 4R B B B 216
S9 S9 S8 356 5R B B B 66
B B S12 244 6R S16 S16 D17 WIN
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第1レグは浅野の先攻。が、有利を活かせない。第1Rは1投目をS1に、3投目をS15に外し66P。第2Rも2本、第3Rは3本すべてブルを外した。他方、後攻の今野は第3Rまで2本ずつブルに入れる安定ぶり。浅野TO GO 525、今野336の大差がついた。

迎えた第4R。意地を見せた浅野がハットトリック。が、今野がハットを返して勝負あり。浅野が5Rで再び3本外すと、今野は2R連続のハット。第6Rで決着をつけた。

想像を超えた激戦の場

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PERFECT参戦当初を振り返って、「やりにくかった」と、浅野ゆかりは言う。

「PERFECTとD-CROWNとでは、雰囲気が全然違いました。Dは仲間意識が強くて、試合中もみんな、きゃっきゃ、はしゃいでる感じだったんですが、PERFECTはプロ意識が強くて、凄くちゃんとしてるんです。今まで一緒に投げていた仲間が少なくなった寂しさもあって、小さくなって、差し込まれる感じもありました」

それに、と浅野ゆかりは続けた。PERFECTは想像していた以上に選手層が厚かった、と。
「トップの実力は互角ですけど、その一つ下のレベルの選手層が厚いんです。だから、予選でも、決勝ラウンドの1、2回戦でも簡単に勝たせてもらえない。優勝できないとは思いませんでしたが、難しいことだと感じました」

D-CROWN時代、無敵を誇った女王を迎えた新天地は、想像を超えた激戦の場だった。


D-CROWNは、ソフトダーツ機器メーカーのD-1を母体に、07年に設立された。PERFECTに1年遅れをとったが、数年で実力では互角以上と評されるまでに成長した。

女子の看板プレイヤーは浅野ゆかり。そして、その設立に深く関わり、ソフトダーツの普及に大きく貢献したのが、夫の浅野眞弥だった。

(つづく)


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○ライター紹介

岩本 宣明(いわもと のあ)

1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。

京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。

著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。