COUNT UP!

COUNT UP! ―― PERFECTに挑む、プロダーツプレイヤー列伝。
―― PERFECTに参戦するプロダーツプレーヤーは約1,700人。
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
2016年8月17日 更新(連載第80回)
Leg16
いつも夢見ていたPOLAR STAR。いつか届く、いつか伝わる。
北が南を溶かす、この情熱の熱情を。
髙木静加

Leg16 髙木静加(2)
逃げた

PERFECT女子の戦いがヒートアップしている。7月開催の第11戦京都大会決勝で、女王レーストップの髙木静加と3位の大内麻由美が激突。髙木が今季4勝目を勝ち取り、トップを死守。 ランク2位の大城明香利は、2回戦でランク5位の川島淳に苦杯を喫し、2位3位が入れ替わった。  8月開催の第12戦の横浜は川島が今季2勝目。川島は3回戦で大内、ベスト8で大城、ベスト4で髙木の3強を撃破しての優勝で、女王レースの順位に変化はなかった。

瞠目すべきは髙木の奮闘だ。第6、7戦を連覇し、大城と大内を向こうに回して一歩も引かない快進撃を続けている。

負けず嫌い

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プロ3年目の昨季に総合ランキング6位に躍り出て、大きなジャンプアップを果たした髙木静加は、強い決意で昨季の開幕を迎えていた。「他人と競うのが嫌い」と言ったフィギュアスケートの高橋大輔選手のような例外もあるが、プロのスポーツ選手の大半は負けず嫌いである。髙木もその一人だ。

プロ2年目の2014年にトリニダードのテスターとなった髙木は、7戦の参戦ながらベスト4とベスト8にそれぞれ1度ずつ食い込む結果を残した。翌2015年シーズンは、プレイヤーのユニフォームを着て全戦に参戦できるはず。最終戦を終えた髙木は心密かに期待した。が、社長の福永正和は首を縦に振らなかった。PERFECTでの優勝と上位ランクが必要と指摘された。悔しかった。
 条件を達成して、文句なしでプレイヤーになる――。それが昨季開幕前の髙木の決意だった。

そして髙木は、前年41位の選手とは思えない快進撃を始める。開幕戦こそ3回戦で敗退したものの、第2戦にベスト4、第3戦でもベスト8に残った。負けた相手は、いずれも女王大城だった。

憧れの恵さんと決勝を戦う

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迎えた第4戦神戸大会。準々決勝で大城から大金星を挙げた髙木は、勢いに乗って決勝まで駒を進める。大城に勝ったのも、決勝の舞台も初めて。決勝を戦ったのは、憧れの大先輩、松本恵だった。

いつもの通り9ダーツTVの実況席でマイクに向かった福永は、「今、一番乗りに乗っている新鋭」と髙木を紹介した。「男子並みのダーツの飛びとテンポ」とそのプレイスタイルを解説し、「いつか必ず4強に入ってくる選手」と持ち上げた。4強とは、松本、大城、大内、今野である。

試合前、「ぶつかっていこう」と自らを励ました髙木は、先攻の第1レグ701で好発進する。スタートから5R連続のロートンで圧倒。PERFECTの女王に5度輝いた松本を前に「気おくれはなかった」。

が、第2レグで、プレッシャーが髙木を襲う。気おくれはなかったはずだったのに、女王の背中にオーラを感じた。突然、いつも通りのダーツができなくなった。松本にあっさりキープを許し、レグカウントはタイに。そして勝負どころの第3レグを迎えた。キープできなければ初優勝は遠ざかっていく。

ZOOM UP LEG

2015 PERFECT【第4戦 神戸】
決勝戦 第3レグ「クリケット」

髙木 静加(先攻)   松本 恵(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
1 T20○ 20 20 1R T19○ T19 T19 114
20 20 20 80 2R T20● 19 T19 190
18 18 18○ 80 3R T18● 17 T3 190
T17○ 17 T17 148 4R 17 17● T19 247
16 T16○ 16 180 5R T16● 15 T15○ 262
10 OBL OBL 180 6R OBL OBL OBL○
WIN
262
OBL=アウトブル IBL=インブル T=トリプル D=ダブル ○=オープン ●=カット
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先攻の髙木は第1Rの1投目をいきなりミス。2投目はトリプルに捩じ込んだが4マークスタート。対する松本はいきなりのベットで強烈な先制パンチを見舞った。

第2R。平常心を失いシングル3本の髙木に対し、松本が早くも追い打ちをかける。1本目で髙木の20をカットし、2、3投目にプッシュ。7マークで後攻の不利を吹き飛ばした。

第3Rも髙木は3マークで陣地を取るのがやっと。松本は再び1投で髙木の18をカットした。髙木は第4Rに7マークで意地を見せる。が、松本は落ち着いて2投で髙木の17をカットし、3投目はトリプルで19をプッシュした。

ブレイクを許せば後がなくなる髙木は必死に追い縋る。第5Rは5マークで16をオープン・プッシュ。しかし、松本は精密機械のような精緻なダーツで追撃を許さない。1投目に三度1本で髙木の16をカット。15もオープンし大勢を決した。

第3レグは僅か6Rで松本がブレイクし、格の違いを見せた。

第4レグの髙木は別人。得意のブルを何度も大きく外し、なす術なく敗れ、トレードマークの笑顔も消えた。が、松本との戦いで得たものは大きかった。

大城に1勝7敗

2015年シーズンの髙木は、その後も安定した戦いぶりで、全17戦中半分近くの8大会でベスト8以上に食い込み、年間総合6位の成績を残した。女王大城、2位大内、3位今野の3強に続く、4位の田中美穂と5位の長木真由美はいずれもトリニダードの先輩。田中とのポイント差は62だった。

特筆すべきは大城との対戦。この年、髙木は大城と実に8度も対戦し7度敗れた。が、その負けは、松本との決勝がそうだったように、確実に髙木を成長させた。優勝こそできなかったが、髙木は自らの力でプレイヤー昇進を手にし、憧れだったトリニダードの白いユニフォームに袖を通すことを許された。

活発で人見知り

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髙木静加は1988年、北海道・虻田町(現洞爺湖町)の出身。洞爺湖に有珠山。2009年には主要国首脳会議が開催された風光明媚な観光地で、生まれ育った。父は会社員で、母は洞爺湖のホテルで働いていた。

3人兄妹の末っ子の静加は、好奇心旺盛で活発な女の子だった。お兄ちゃんの真似をして野球に夢中になり、お姉ちゃんと一緒にピアノを習った。兄と姉の背中を追いかけた子供時代を過ごした。半面、人見知りで臆病なところもあった。

姉の影響で小学校の頃からバレーボールを始めた。中学時代には厳しい練習に耐え、中心選手として活躍した。地区の選抜に選ばれ注目を浴び、家族や友達からも高校でバレーボールを続けることを勧められた。

が、「逃げた」
 バレーを続けたい気持ちは強かった。が、自信がなかった。期待に応えられなかったらどうしよう。臆病が顔を出し、迷い悩んだ末に地元の高校に進学した。バレーはやめた。弱い自分に負けて逃げたことがトラウマになった。

二つあった運命の出会い

子供の頃の夢は、看護師さん。叔母さんの白衣姿に憧れたが、勉強は無理と思って諦めた。中学校の頃にはパティシエになれたらいいなと思った。自分で作って食べるのが大好きだった。喫茶店やホテルのアルバイトに明け暮れた高校時代、美容院の娘と親しくなり、美容師もいいな、と思った。卒業後、札幌の理容美容専門学校に入学した。

そして、美容学校2年目の終わりに、運命の出会いが待っていた。

ボーイフレンドができた。何度目かのデートのとき、ダーツに誘われた。夜の遊びのイメージがあって、最初は少し嫌だと思った。けれど、投げてみると、面白かった。彼はとても上手かった。ぼろ敗けしたのが悔しくて、次の日は自分から誘っていた。それから、行ける日はほぼ毎日、漫画喫茶で朝までダーツを投げた。出会ったのは、後に夫になる人だけではなかった。

(つづく)


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○ライター紹介

岩本 宣明(いわもと のあ)

1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。

京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。

著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。