COUNT UP!

COUNT UP! ―― PERFECTに挑む、プロダーツプレイヤー列伝。
―― PERFECTに参戦するプロダーツプレーヤーは約1,700人。
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
2015年6月15日 更新(連載第59回)
Leg13
風に吹かれて歩き続ける 行き先はわからない ただ自分らしく生きていく
今野明穂

Leg13 今野明穂(1)
今野 Who?

パシフィコ横浜、2015年2月21日。PERFECT2015年シーズンの開幕戦決勝の舞台に立ったのは、前年に女王の座を奪還した松本恵でも、年間総合ポイント僅か1ポイントの差で2連覇を逃した大城明香利でもなかった。

松本恵、松本伊代、清水希世、田中美穂らが名を連ねた山を勝ち上がったのは、準決勝で女王松本を倒した長木真由美。他方、大城、大内麻由美、小林知紗、浅野ゆかりらの実力者が顔をそろえた山は、今野明穂が準決勝で宿敵大城を撃破し、勝ち抜けた。

長木が勝てば初優勝、今野が迎え撃てば、14年シーズン第13戦以来の通算6度目のV。両者の戦いは、今野の2レグリードで迎えた第3レグに、珍事が起きる。

どんな勝ち方でも勝ちは勝ち

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第1レグ701は後攻の今野が7Rでブレイク。第2レグは、先攻の今野が追う展開となったが、第11Rの6マークで形勢を逆転しキープした。
 今野の2レグリードで迎えた第3レグのクリケットは長木先攻のはずだった。が、先にスローラインに立ったのは今野だった。

今野が3本を投げ終えると、会場にざわめきが起きる。スローラインに立った長木はいったん控えに下がったものの、レフリーにアピールはせずに再びスローラインに戻った。長木が1投目を放った時点でゲームは成立。微妙な空気が漂う中で、試合は続行されることになる。

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2015 PERFECT【開幕戦 横浜】
決勝戦 第3レグ「クリケット」

今野 明穂(先攻)   長木 真由美(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
20 × 20T 20 1R × 19T 19 19
× 19 × 20 2R 19 × 19 57
× 20T × 80 3R 19 19 × 95
19D 20 20 120 4R 18 18 18T 131
× 20 20 160 5R 18T × × 185
× 20 20T 240 6R × × × 185
× 18 18D 240 7R 17 17T × 202
17 17 17 240 8R 16 16T × 218
16T 15T × 240 9R DBL × × 218
× × × 240 10R × DBL × 243
× × × 240 11R 20 × B 268
20 20 20T 340 12R DBL × × 318
× × 20 360 13R B B × 368
B × DBL 390
WIN
14R
T=トリプル D=ダブル B=シングルブル DBL=ダブルブル

今野の先攻となった第3レグの序盤は、微妙な空気の中、両者ミスを連発する我慢比べの展開となる。第3Rを終えてポイントは今野80対長木95。互角の戦況で決勝は中盤へ向かった。

第4R。1投目にダブルで長木陣の19をカットした今野はシングル2本で40ポイントを加点。一方の長木は18の5マークで36ポイントを加え、譲らない。が、長木は続く5、6Rでミスを連発。5Rの2投目から6Rの3投目まで5連続のミスショットで差は徐々に広がった。

第7Rからは、今野が長木陣をカットし、長木が新たに獲得した陣地をまた今野がカットする繰り返しの神経戦となる。第8Rを終え、開いている陣地は今野の20と長木の16で、ポイントは今野240対長木218。

第9R。1投目に今野がトリプルで長木陣の16をカットし、2投目はトリプル1本で15をオープン。3本目はミスショットとなったが、6マークを打ち、勝負ありかに見えた。が、その後に予想もしない展開が待っていた。

ブルを獲得してポイントオーバーし、ワンチャンスを待つしかない長木の第9Rは、1本目のダブルブルだけ。続く第10Rでブルを3本入れればWINの今野は、まさかの3連続ミスショット。チャンスをもらった長木は、1投目のミスのあと2投目をダブルブルに捩じ込みポイントオーバーしたが、開いている陣地はブルのみ。20と15を保持する今野の優勢は変わらない。

第11R。1投目をミスした今野は、2投目にプッシュを選択したがそれもミス。3投目も同じターゲットを選択し再びミスショット。再び長木にチャンスが巡ってくる。が、1投目はシングル20、2投目はミスし、3投目にシングルでブルをプッシュした。ポイントは今野240対長木268となった。

第12R。今野は20の5マークで100ポイントを積みポイントオーバー。しかし、ブルをクローズすれば勝利の第13Rで1、2投目をミスし、3投目は再び20をプッシュ。ポイントを340まで積んだ。粘る長木はブル2本で再びポイントオーバー。第10R終了時と同じ戦況に戻る。

が、ここまで。長丁場となった決勝は、第14Rに今野が苦しんだブルをクローズし、開幕戦の優勝を手にした。

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開幕戦の決勝を振り返って今野は言う。「どんな勝ち方でも勝ちは勝ちなので、嬉しいです。でも、第3レグは、正直、ずっと長木さんに獲ってくれと思いながら、投げていました。もちろん、わざと負けるようなことはしませんけど、第4レグですっきり勝てばいいんだとは思っていました」

どんな勝ち方でも勝ちは勝ち―― その言葉に、不振のどん底に喘いだ2014年を乗り越えた今野の成長の跡と、苦しみの中で芽生えたプロダーツプレイヤーとしての覚悟が窺えた。

開幕戦の優勝で、今野は勢いを得る。

開幕ダッシュ

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2015年シーズン。開幕から今野明穂の快進撃が止まらない。開幕戦での優勝に続き、第2戦北九州は宿敵・大城と決勝を戦い準優勝。札幌開催の第3戦では、再び決勝で激突した大城にリベンジを果たし今季2勝目をあげた。

第4戦の神戸大会では、優勝した女王・松本恵に決勝トーナメントの初戦2回戦で屈したものの、福岡の第5戦はベスト4。5戦を終えて一度も1位の座を譲らず年間女王レースのトップを直走る。

2位の大城とは37ポイント差。結婚した松本恵に欠場が目立つこともあり、15年シーズンは早くも大城、今野の一騎打ちの様相を呈する。先頭を行く今野のダーツには、昨季の不振の影は露ほども見当たらない。

衝撃デビュー

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それは、文字通りの衝撃デビューだった。

今野明穂のPERFECTデビューは2012年10月。当時、住んでいた沖縄で開催された、第12戦に出場したのが始まりだ。

デビュー戦でいきなりベスト4に入賞すると、続く13戦静岡大会では参戦2戦目で早くも決勝を戦い準優勝。14戦の神戸でも準優勝し、ダーツファンや関係者を瞠目させると、熊本開催の15戦で、あっさりと初優勝を手にしてしまった。

この時今野は全くの無名。団体戦で戦う沖縄の地域リーグには出場し、地元では知られる存在だったが、個人戦はプロアマ問わずPERFECTが初めての出場だった。

今野っていったい何者?――。ダーツ関係者の誰もがそう思ったほど、今野の登場は謎に包まれていた。

今野はどこからやって来たのか?

全戦参戦することになる2013年シーズン当初も、勢いは止まらなかった。開幕戦でベスト4に入賞すると、第2戦で2度目のV。第3戦でベスト4、第5戦(第4戦は中止)で13年季2度目、通算3度目の優勝を果たし、年間女王レースのトップに躍り出た。今野と同じく13年シーズンから全戦参戦し、第2戦、第3戦で準優勝した大城とともに、PERFECTに沖縄旋風を巻き起こした。女王松本を押しのけ、今野、大城の沖縄勢コンビが女王レースを戦うのではないか。そんな予感すら漂い始めていた。

が、地元沖縄開催の決勝で、大城と2度目の沖縄勢対決を戦い準優勝した6月の第10戦を最後に失速。地元優勝を機に一気に年間女王に上り詰めた宿敵大城とは対照的に、その後の今野は、初めての、そして長いスランプを苦しむことになる。

今野にいったい何が起こっていたのか?
 そもそも、今野はいったいどこからやって来たのか?

(つづく)


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○ライター紹介

岩本 宣明(いわもと のあ)

1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。

京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。

著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。