COUNT UP!

COUNT UP! ―― PERFECTに挑む、プロダーツプレイヤー列伝。
―― PERFECTに参戦するプロダーツプレーヤーは約1,700人。
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
2013年12月24日 更新(連載第19回)
Leg5
迷わない 彷徨わない 歩く道は自分が決める それが私のプライドだから
今瀧舞

Leg5 今瀧舞(2)
観客席の空気を変えるダーツがしたい

COUNT UP!

今瀧舞は今季、第9戦仙台大会と第14戦札幌大会で2度決勝に進みながら、いずれも涙を呑んだ。優勝するためには何が足りない思うか? 問うと今瀧は
「シュート力です」
と即答した。

今瀧を決勝で倒した仙台大会以後3連覇を果たし、今季年間総合女王レースを独走する大城明香利は、ブルをほとんど外さない。外したとしても、その多くは1、2ビット外れるだけだ。年間女王4連覇の松本恵にしても、今季ランキング上位に居続ける今野明穂にしても、ターゲットからダーツが大きく逸れることは少ない。

が、今瀧のダーツには斑がある。ここぞというときも、ノープレッシャーの場面でも、なんの脈絡もなくダーツがターゲットから大きくはずれることがある。それが勝敗の行方を左右することも少なくない。

課題はシュート力と即答した今瀧は、それを自覚している。理由も分っている。

ZOOM UP LEG

第9戦 仙台大会 決勝 第2レグ「クリケット」

今瀧 舞(先攻)   大城 明香利(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
T20○ ×(S1) S20 20 1R T19○ T19 S20 57
×(S1) S20 S20 60 2R S19 S20 S20● 76
S17 T17○ T19● 77 3R S18 ×(S1) T18○ 94
S17 T18● T17 145 4R ×(S7) ×(S7) ×(S7) 94
T16○ S15 T15○ 160 5R IBL ×(S5) OBL○ 94
IBL OBL●
WIN
160 6R
○=OPEN ●=CUT OBL=アウトブル IBL=インブル
COUNT UP!

先攻の今瀧は第1Rの1投目に20をオープンする絶好の滑り出し。が、2投目はターゲットから右に2ビット上に6ビット外しミス。3投目は下に6ビット外した。後攻の大城は1投目に19をオープン。2投目にトリプルで得点をリードした。

第2Rの1投目も今瀧はミス。チップはターゲットのT20の右下隅から右に6ビット、下に4ビットのS1に吸い込まれた。

2Rを終えポイントは60対76。開いている陣地は大城が1つ。第3Rの今瀧は2投で17をオープンすると、僅か1ポイントのリードでプッシュには目もくれず、大城の19を1投でクローズした。一方の大城は18のオープンに3投を費やした。

第4R。今瀧は1投目にプッシュ(S17)すると、ポイントタイの場面でまたもカットに。トリプルで大城の19をクローズすると、3投目のプッシュをT17に収めポイントをリードした。今瀧の強気のダーツに気圧された大城は、珍しくミスを連発。0マークでポイントが離れた。

流れに乗った今瀧は、続く第5Rに7マークで16、15をオープン。大勢は決した。

攻めのダーツ

COUNT UP!

――今瀧さんにとって「自分のダーツ」とは?
「強気のダーツ、攻めのダーツです」

何を訊いても今瀧からはすぐに答えが返ってくる。躊躇があるときは、言いたくないか、発言が誰かの迷惑になる恐れがあるときだけだ。答えを考えるということはほとんどない。ダーツについての質問に即答できるのは、ダーツについていつも考えている証左であろう。

強気のダーツというのは、例えば01なら仙台決勝の第4レグ第5Rの2投目のように、もし次のラウンドで上がり目を残せる可能性があるなら、ブルではなくT20を狙っていく、というような姿勢だと、今瀧は言う。

プッシュよりカット

COUNT UP!

クリケットの場合は同じ仙台決勝の第2レグがそれを象徴している。クリケットでは男女を問わず、ポイントが僅差なら安全策のプッシュを選択する選手が圧倒的に多い。PERFECTのツアーではそれが定石とも言え、レグの戦いが10Rを超え、両者のポイントが200点台に乗ることも珍しくない。

が、今瀧は安全策を嫌う。僅差なら少々のビハインドでもカットを優先。次に優先するのはオープンだ。危険と隣り合わせだが、見る者にはスリリングで面白い。同じホワイトホースであっても、プッシュ、カット、オープンより、カット、オープン、プッシュの方が、見ていてはるかに痛快だ。

「私、見てる人が“わっ”って驚くようなダーツがしたいんです」
理想のダーツを訊ねたときの答えだ。今瀧は語る。
「試合中は相手の顔を絶対見ないんですよ。でも、何となく周りの空気ってあるじゃないですか。観客の空気と言うか。それを“わっ”て言わせたいんです。外した時の溜息じゃなくて。『わっ、そこ行ったんだ』っていう空気を。私の一投で観客席の空気が変わる、その瞬間がとても嬉しいですね」

語る今瀧は生き生きとしている。

強気のほんとの理由は…

COUNT UP!

が、今瀧が強気の戦略を好む理由は、それだけではない。

初対面であっても、相手が誰であっても、にこやかに、はきはきと応対ができる今瀧の第一印象からは想像し難いが、彼女は自分をマイナス志向が強いと自己分析する。明るい振る舞いは虚飾で、実はネガティブなことばかり考えている。そんな性格なのだ、と。

性格はダーツに滲み出る。だから、自らの弱気を払拭するために、強気のダーツを自分のダーツにすることに決めた。

話を聞きながら、合点がいって頷いていた私は、今瀧に不意を突かれた。
「それに、私、そうするしかないんです」
驚いたことに、今瀧の強気には、さらに深い理由があった。攻めのダーツには、そうせざるを得ない、もう一つの理由が、隠されていた。おそらく、本当の理由が。

(つづく)


記事一覧
→ COUNT UP! トップページ
○ライター紹介

岩本 宣明(いわもと のあ)

1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。

京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。

著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。