COUNT UP!

COUNT UP! ―― PERFECTに挑む、プロダーツプレイヤー列伝。
―― PERFECTに参戦するプロダーツプレーヤーは約1,700人。
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
2015年9月14日 更新(連載第65回)
Leg14
新たなる修羅の地で彷徨えし貴公子 復活を賭けた「精密機械」 その魂の咆哮
知野真澄

Leg14 知野真澄(1)
3冠王者誕生

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1年をかけて全国約20都市を転戦する、ソフトダーツ・プロ・トーナメントPERFECTは、毎年12月の最終戦の翌日に、年間表彰式を開催している。表彰式に招待された選手たちがドレスやスーツを身に纏い、思い思いの装いで会場を彩る、文字通りの晴れ舞台だ。男女合わせて千人を超えるプロ資格を持つ選手たちは、その日に招待を受け、着飾った姿で表彰を受けることを夢見て、ツアーを戦っていると言っても過言ではない。

タキシードの貴公子

2014年シーズンの表彰式は12月14日、東京ベイ幕張ホールで開催された。この日の主役は知野真澄。ときに「精密機械」とも評される正確無比なダーツと、ポーカーフェイスに隠れた強心臓で、14年シーズンの年間王者を手にした。

表彰式の冒頭、フェリックス社長の福永正和が「日本で一番」と持ち上げた新王者の人気は絶大だ。浅田斉吾、山本信博、山田勇樹ら「猛者」と言えばぴったりの風貌の実力者が多いPERFECT男子の中で、長身のスラリとした体躯と甘いマスクの容貌は際立つ。愛称は「みんなの貴公子」と「みんなの知野君」。人気者の知野君は、独り占めできないのである。

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生まれて初めて袖を通したという黒のタキシードで身を包んだ知野は、この日、4度の表彰を受けた。エリアランキング、最優秀PPD(01の1ダーツ平均点ランキング)、最優秀MPR(クリケットの1ラウンド平均マーク数ランキング)、そしてMVPの年間総合王者の4つである。年間王者は当然エリアランキングでも首位になるため、実質的には3冠。PERFECT事務局がスタッツランキングの公表を始めた2012年以来、3冠を達成したのは知野が初めて。史上初の3冠王者の誕生に、PERFECTは湧いた。

年間王者表彰の後のスピーチで知野は語った。「ダーツ歴10年の節目に、チャンピオンになることができました。これに驕ることなく、来年も『みんなの知野君』であれるように、日々努力していきたいと思います」

27歳にして「ダーツ歴10年」。「驕らない」「みんなの知野君」「日々努力」――。淡々とはしていたが、知野を語る上で欠かせないキーワードが出揃ったスピーチだった。

「年間王者だけを目指す」

新王者になった「知野君」の半生を辿る連載の第1回は、知野が初めて年間総合王者となった2014年シーズンを振り返るところから始めたい。開幕戦はベスト4で好スタートを切ったが、第2戦北九州はベスト8、第3戦神戸は1回戦敗退、第4戦はベスト8。「年間王者だけを目指して」挑んだシーズンだったが、序盤は「ぐずぐず」して、周囲を心配させた。が、知野に焦りはなかった。

「14年シーズンは開幕からずっと好調だったので、結果が出てなくても、不安はありませんでした。いつでも決勝を戦える。チャンスがきたらやってやろう、という気持ちで、いつか必ず勝てる、と思っていました」

事実、結果はぐずぐずしているように見えても、内容はよかった。開幕4戦中3戦は、いずれもその日好調で決勝まで進んだ選手に敗退していた。その対戦相手は、浅田斉吾、山田勇樹、そして第4戦で優勝した大城雄太。知野の言葉通り、いつでも決勝を戦える準備はできていた。

第5戦、第6戦で連続ベスト4のあと、第8戦(第7戦は中止)の名古屋で、「ビッグ4」の一角、山本信博を決勝で破ってシーズン初、自身2度目の優勝を飾ると、そこからはエンジン全開。後半戦のPERFECT2014は、「みんなの知野君」のワンマンショーと化すことになる。

独走

第9戦広島は、決勝で、すでにシーズン2勝をあげていた大城雄太を退け初の連勝。ツアーの前半戦を終え、優勝2回、3位タイ3回と2回のベスト8という安定した戦いぶりで、年間総合ポイントのトップに躍り出た。

第10戦は、「勝つのが一番難しい」と言う横浜大会。東京が地元の知野を応援するファンが大勢駆けつけるため、試合合間は応対に追われ、「集中を維持するのが難しい」。が、その横浜で知野は準優勝してトップを堅守する。優勝したのは、がんの手術・PERFECT欠場から生還したばかりの山田勇樹だった。

第11戦の新潟は、ベスト16で優勝した谷内太郎に、第12戦岡山では準決勝で山田勇樹に苦杯を嘗めたが、トップは譲らない。そして、続く第13戦の札幌から、知野はPERFECTの歴史に新たな伝説を作ることになる。

札幌の決勝で西哲平を退けシーズン3勝目をあげた知野は、第14戦静岡の決勝では、学生時代からのライバル小野恵太に1レグも与えず完勝して2連勝。さらに、第15戦、「勝つのが難しい」横浜決勝では、「高校時代からいろいろ教えていただいた」大先輩のK-PONこと佐藤敬治を倒して連勝記録タイの3連勝を果たす。年間総合ポイントは、この時点で747。577ポイントで2位の浅田に170ポイントの大差をつけた。

金字塔

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迎えた第16戦熊本大会。優勝すれば、念願の年間王者が決定するだけでなく、前人未到の大会4連勝の金字塔を打ち立てることにもなる。

決勝トーナメントを順調に勝ち進んだ知野は、ベスト16で小野を撃破。準々決勝では、山田勇樹を倒して勝ち上ってきた樋口雄也を退け、準決勝は柚木洋一を問題としなかった。

逆山を勝ち上げって来たのは、年間総合ポイント2位の浅田。トーナメント序盤で若手の成長株、大城真也と馬上亮一の挑戦を跳ね返し、準決勝では盟友の山本信博を退け、好調を維持していた。

年間総合優勝を争う両雄だったが、14年季の直接対決は、終盤に至って僅か2回。開幕戦と第5戦にいずれも準決勝で顔を合わせ、浅田の2勝。知野は勝っていない。決勝は、逆転総合優勝に僅かな望みを繋ぐ浅田にとっても、浅田を倒し「文句なし」の年間王者の称号と4連勝の偉業を手に入れたい知野にとっても、絶対に負けられない一戦となった。

大相撲

決勝は知野の先攻で戦いの火蓋を切る。第1セット、ファーストレグの501を12ダーツでキープして勢いを得た知野は、第2レグのクリケットをブレイクし、1セットアップ。が、浅田も一歩も引かず、戦いはヒートアップする。第2セット第1レグ501を浅田が12ダーツでキープすると、その後は、両者譲らぬキープ合戦。第2セットは先攻の浅田が堅守し、ゲームはフルセットマッチとなった。

第3セットも両雄譲らず、レグカウント1-1で最終レグになだれ込んむ。コークを勝ったのは浅田。知野は迷いなく、クリケットを選択。そして、その時が近づいた。

ZOOM UP LEG

2014 PERFECT【第16戦 熊本】
決勝戦 第3セット 第3レグ「クリケット」

浅田 斉吾(先攻)   知野 真澄(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
20 T20 20 40 1R 19 T19 T20 19
18 T18 19 58 2R T19 18 T19 133
T18 18 T18 184 3R 19 19 T19 228
T18 T19 × 238 4R 17 17 T17 262
T18 T17 18 310 5R 16 T16 16 294
16 16 16 310 6R T15 T15 × 339
18 18 15 346 7R T18 15 T15 399
OBL IBL OBL 371 8R IBL IBL 424
WIN
T=トリプル D=ダブル IBL=インブル OBL=アウトブル

序盤から知野は攻めのクリケットで勝負に出る。先攻の浅田の第1Rは5マークで40ポイント。知野はS19、T19で19ポイントを得ると、ポイントビハインドながら、3投目はカット。トリプルで浅田陣の20をクローズした。浅田に「20は打たれたくない」という判断もあった。

第2、第3Rは、浅田が5マークと7マーク、知野は7マークと5マーク。ミスの許されない、緊迫した展開が続く。

第4R。浅田は1投目のT18でポイントオーバーすると、2投目に知野陣の19をカット。3投目は、知野が第1Rにポイントビハインドの場面でカットにいったのとは対照的に、ポイントリードの場面でプッシュの慎重なダーツを選択する。が、ミスショットとなった。つけ入りたい知野だったが、「(勝ちを)意識してしまった」知野は、17の5マーク。ポイントはオーバーしたが、戦況は動かなかった。

第5R。浅田は1投目に再びトリプルで18をプッシュし、ポイントオーバーすると、2投目に知野の17をトリプルでカット、3投目は再びプッシュに行ってシングル。7マークを打ったが突き放すには至らない。しかし、知野は5マークでポイントオーバーできない。ゲームは終盤に入り、先攻有利の浅田がじわじわと知野にプレッシャーを与える展開が続いた。

が、第6Rで浅田が突如、崩れる。ポイントリードの浅田は、1投目のカットで勝負を決めに行く。が、トリプルゾーンの内側に入り、シングル。2投目はダブルをターゲットに選択したが、これも1ビット内側のシングル。浅田は16のカットに3投を費やし、知野にチャンスが巡って来た。

知野は1投目にトリプルで15を獲得。2投目もトリプルで加点しポイントオーバー。3投目に浅田の18をカットすれば、戦況逆転のチャンスだったが、決めきれない。ダブルゾーンではなく、トリプルを狙った3投目は僅かに左内側で、ミスショットとなった。

知野の投擲をじっと見つめていた浅田は、知野が3投目にミスした瞬間、ボードに背を向け、一呼吸入れてスローラインに向かった。そして、大詰めの第7R。浅田の1投目はシングルとなり、ポイントを逆転できない。2投目もシングルとなったが、ここでポイントオーバー。3投目に知野陣15をカットできれば、優勝トロフィーに手がかかる。が、痛恨のシングル。後攻めの知野に再びチャンスを与えた。

年間王者を目前にしても「平常心」でスローラインに立った知野は、1投目にポイントビハインドの場面で再びカット。ダーツをT18に捩じ込んだ。そして2投目のS15でポイントオーバー。勝利を確信した知野は3本目をT15で加点し、勝負を決した。

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年間王者を決定するラストダーツをブルに突き刺し、浅田との大相撲を制した直後、知野は右の拳を握りしめるガッツポーズ。浅田に歩みよって握手を交わしてから、ボードのダーツを抜き、振り返って観客席に向かい右手を挙げる。そして、目をかっと見開き頬を膨らまし、大きく息を吐いた。普段はゲーム中も、終わった後も、ほとんど感情を外に現さない知野の興奮が見て取れた瞬間だった。

貴公子の苦悩

知野は、2012年半ばに消滅したD-CROWNの最後の年間王者だった。「D-CROWNの貴公子」と呼ばれ、鳴り物入りで、PERFECTに移籍した。が、シーズン途中に参戦した12年は1勝も出来ずにシーズンを終える。自分も期待し、周りからも期待された翌13年も、僅かに1勝。年間総合7位で終わり、知野を「貴公子」と呼ぶ者はいなくなった。

そして迎えた2014年。シーズン後半に爆発して、王者への階段を一気に駆け上がった。ジャンプアップのきっかけはどこにあったのか?知野に訊くと、意外な答えが返って来た。

「あのときとか、あの試合というのはありません。強いて言えば、2013年の1年間、というか、PERFECTに来てからの1年半が、きっかけだったと思います」

ジャンプアップのきっかけは、勝てなかった1年半だと、知野は言う。それは、若くしてトップ選手に上り詰めた「貴公子」が、初めて味わった苦悩の時間だった。

つづく


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○ライター紹介

岩本 宣明(いわもと のあ)

1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。

京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。

著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。