COUNT UP!

COUNT UP! ―― PERFECTに挑む、プロダーツプレイヤー列伝。
―― PERFECTに参戦するプロダーツプレーヤーは約1,700人。
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
2015年12月21日 更新(連載第71回)
特別編
誰もが望んだ怪物の覚醒 躍進を支えたのはファンの力だった
浅田斉吾

特別編 浅田斉吾
年間11勝 ―― 歴史を変えた“ロボ”

COUNT UP!

PERFECT2015年シーズンは、12月12日、千葉・幕張メッセの最終戦で全日程を終了し、翌日、年間授賞式が開催されました。年間チャンピオンは、男子が史上最多の11勝をあげた浅田斉吾選手が初制覇、女子は年間6勝の大城明香利選手が2年ぶり2度目の女王の座を射止めました。両選手とも、シーズン途中からチャンピオンレースを独走し、最優秀PPD、最優秀MPRを加えた3冠に輝く圧勝でした。
 COUNT UP! では特別編として、2回に渡り年間チャンピオンインタビューをお送りします。第1回目は、念願の初制覇を遂げた浅田斉吾選手です。(聞き手=COUNT UP!著者・岩本宣明)

「一戦一戦を大切に」

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――年間総合優勝おめでとうございます。率直なお気持ちからお聞かせください。
 [浅田] 素直に嬉しいです。

――13年、14年と連続で2位。特に昨年は知野選手に独走を許し、随分悔しい思いをされたと思いますが、どんな気持ちでシーズンに入りましたか?
 [浅田] 絶対に年間王者を獲るとか、そういう気持ちはありませんでした。こんな結果になると思ってやっていた訳でもありません。あまり気負ってもダメかなと思って。ランキングなどを意識しすぎるとどうしても焦ってしまうんです。それでこれまで結果が出ていなかったので、地道にいい成績を、っていう感じですかね。絶対勝つと言うのはありましたけど、年間を通しての目標ではなく、一戦一戦を大切にと思って、開幕を迎えました。

――それにしても、今季は記録ずくめの驚くべき成績です。年間11勝は勿論ですが、昨年知野選手が作った4連勝の大会連勝記録も更新し5連勝。さらに決勝トーナメント96勝6敗も過去最高の記録です。あまりの正確無比なダーツに「浅田ロボ」という新しいニックネームまで生まれました。ここまで安定した成績を残せた理由はどこにあったと思いますか?
 [浅田] 一つには、調子を維持するためのいいルーティーンが確立できたのが良かったと思います。試合前にやみくもに投げ込むことはやめ、しっかり休養をとる。フォームにも、これまでは強いこだわりがありましたが、あまりこだわり過ぎず、そのときの状態で出来る中で一番いいと思う投げ方にシフトするというように変わりました。結果、調整が上手くいったので、勝つために力でねじ伏せようとか、無駄な力が抜けて、焦りがなくなり、出る試合に勝って行こうと思えるようになりました。
 それから、去年の知野君もそうですが、「勝ち癖」というのがあると思うんですよ。一回勝つと、気持ちが楽になって次も勝ちやすい。毎回、調整も上手くいっているからミスが少なくなり、気持ちにも余裕があるからまた勝てる。その好循環がありました。

「もっと早くできていなければいけなかった」

COUNT UP!

――技術的なことや戦術では何か変化はありましたか?クリケットでは、加点をせずにどんどん陣地をオープンしていくような戦術が見られました。
 [浅田] 技術的にはフォームにこだわり過ぎるのをやめた以外、何も変わってません。自分では毎回少しずつ変えてはいますが、フォームはもう体に染みついていますから、他人から見て分かるような変化はありません。戦術では、好調を維持できてスタッツも良かったので、相手を見て戦術を変えることができました。クリケットなら、相手にスイッチが入っていないと思ったら、調子が出る前に試合を早く終わらせるために、加点よりオープン。相手が打てているときは、力勝負にして長丁場にした方がいいと思って、加点を重視しました。スタッツでは自分の方が上だったので、長く打ち合えば必ずその差が出ると思っていました。

――年間総合優勝を決めた時は、拍子抜けするほど淡々とされていましたが、理由はありますか?
 [浅田] とくに理由はなく、自然にそうなっただけです。これまで3位、2位、2位と来ていましたから、年間王者へのプレッシャーも感じませんでした。これまでにもっと早くできていなければいけなかったことが、やっとできたというだけのことやと思っています。

――今期僅か6敗ですが、最終戦は別として、その前に負けた5人に対しては、必ず次の試合で圧倒してリベンジしています。特に意識したということはありましたか?
 [浅田] 特別な意識はないです。が、沖縄で負けた金子君には次の大会で、いいスタッツで勝ちましたね。それから、韓国の試合で西君に負けた後は、次のPERFECTでは西君との対戦が山だと思って、そこに照準を絞って挑みました。

ツアーを一緒に回ってくれたファンの支え

COUNT UP!

――昨年までは、試合中に突然イライラし始めて自滅するような試合が、少なからずありました。COUNT UPに浅田さんを連載したときにも、精神的にそれが克服出来たら、浅田選手はとてつもない選手になるという意味のことを書きましたが、今年はそれが全くなかった。良い調整ができた以外に、なにかメンタルで成長できた理由はありますか?
 [浅田] 自分はもともとちょっと悪役やったと思うんですけど、それで批判もされたりしましたが、今年は俄然応援してくれる人が増えたんですよ。それが、今年これだけの成績を収められた一番の理由やと思います。試合会場にも、年間通して全試合を実費で一緒にまわって下さるファンの方も増えましたから、勝つところを見せたい、迷惑をかけたくない、見せる試合をしたい、落ち着いて試合がしたいという意識がありました。
 もともと、些細なことがきっかけやったんですよ。自分のプレー以外の。例えば、自分が投げてる横でどうしてワールドカップの中継をディスプレイ―で放映しているのかとか、そういうことにイライラしてプレーに影響していました。それから、僕は関西なんで、どうしても関東で試合するときは相手の応援が多くてアウェー感が強く、それが嫌でイライラしたりもしていました。でも、今年は数では負けていても、大きな声で声援を送ってくれるファンがついていましたから、そんなことは飛び越えて、自分はどんとしていればいいんだと思えるようになりました。

――ファンに助けられたと?
 [浅田] そうです。試合を応援してくれるだけやないんです。試合の合間には僕の体調を気遣ってお茶出してくれたり、僕が気持ちよく試合に臨めるようにいろいろなフォローをしてくれました。僕より先にトーナメント表を見て、今回はここに気を付けてとか、本当に助けてもらいました。技術的には実力は去年までとなんも変わってないんですよ。つまらないことを気にしたり、アウェーで力が出せなかったりで勝てないことが多かったんです。ファンの支えもあって、それがなくなって実力が出せたのだと思います。

「まだ早いぞ、って言われたような気がします」

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――浅田さんにとって、今年のベストマッチは?
 [浅田] 勝った試合は広島準決勝のヤンマー(山田勇樹選手)戦。負けた試合では最終戦のヤンマーとの決勝です。ヤンマーはダーツでは先輩ですし、トリニダートに誘ってくれたのもヤンマーです。最終戦の決勝はフルセットフルレグになりましたけど、最後に「まだ、早いぞ」って言われたような気もします。

ZOOM UP LEG

2015 PERFECT 第8戦 広島 「準決勝」

第1LEG「501」
山田 勇樹(先攻)   浅田 斉吾(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
T5 T5 20 451 1R T20 20 T20 361
20 20 T20 351 2R T20 T20 T20 181
20 T20 T20 211 3R 20 T20 T20 41
20 1 T20 130 4R 9 16 D8 WIN
T=トリプル D=ダブル B=ブル
第2LEG「クリケット」
浅田 斉吾(先攻)   山田 勇樹(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
T20 20 T20 80 1R T19 T19 T19 114
T20 T20 T19 200 2R T17 T17 T17 182
T20 260 3R T17 T17 T20 284
18 18 T18 296 4R T17 T18 T17 386
T16 T16 T16 392 5R T17 16 T16 437
T15 T15 T17 437 6R OBL T15 IBL 437
WIN
T=トリプル D=ダブル IBL=インブル OBL=アウトブル
第3LEG「クリケット」
山田 勇樹(先攻)   浅田 斉吾(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
20 T20 T20 80 1R T19 19 T19 76
20 20 T19 120 2R T18 T18 T20 130
T17 T17 T18 171 3R 16 16 T16 162
T17 T16 15 222 4R T15 15 T15 222
T17 T15 T17 324 5R IBL IBL OBL 272
IBL IBL 324
WIN
6R
T=トリプル D=ダブル IBL=インブル OBL=アウトブル
第4LEG「501」
浅田 斉吾(先攻)   山田 勇樹(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
T20 T20 T20 321 1R T20 20 20 401
T20 T20 T20 141 2R T20 T20 20 261
T20 19 10 52 3R T20 T20 T20 81
20 D16 WIN 4R
T=トリプル D=ダブル B=ブル
第5LEG「クリケット」
山田 勇樹(先攻)   浅田 斉吾(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
20 T20 20 1R T19 T19 57
T20 19 80 2R T19 T20 19 133
T17 T17 131 3R T17 19 19 171
T18 T18 185 4R T19 T18 T19 285
T16 19 16 201 5R T16 T19 15 342
T15 T15 15 261 6R 15 15 IBL 342
OBL OBL OBL 261 7R IBL 342
WIN
T=トリプル D=ダブル IBL=インブル OBL=アウトブル

「PERFECT10周年に初年度から参戦のプレイヤーとして年間王者を」

COUNT UP!

――最後に、来年の目標をお願いします。
 [浅田] 来年はPERFECT10周年です。初年度からの参加で全戦回っているのは7、8人で、その中にヤンマーと僕がいます。ですから、記念すべき年に、初年度から参戦のプレイヤーとして是非とも総合1位を取りたいと思います。
 それから、海外の試合にも力を入れたいと思っています。まずは1月のレイクサイド。そして4月に香港で開催されるADA。去年知野君が各国一人しか出場できないスーパーワンで日本人初優勝したときは、ほんまに嬉しかったんですが、今度はやっと自分が出場できるので、今度は自分が優勝したいという気持ちが強いです。
 主戦場はPERFECTですが、海外の大会でしっかり結果を出して、世界最高峰のPDCにも挑戦したいと思っています。

(終わり)

次回予告
次回は特別編第2弾、大城明香利プロをお送りします。

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○ライター紹介

岩本 宣明(いわもと のあ)

1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。

京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。

著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。